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夏目先輩、という名前を聞いて、もう一つ先送りにしていた問題を再度突き付けられた気分になった。
ああ、綾人くんとの生活のインパクトが強すぎて、忘れていた。夏目先輩からされたこと、言われたことを思い出しながら、綾人くんの時とはまた異なる苦しみが沸き上がってくる。
「俺から話す前に一応聞いておくけど、あの後夏目先輩と話したんだろ?」
あの後、というのはきっと、校舎裏のじめじめとしたあの場所で、依央に助けれられた後のこと、生徒会室に行った時のことを言っているのだろう。
あの時の先輩の台詞を思い出す。きみが僕のものになってくれるなら、いじめはきっとなくなるだろうね、といった、あのときの空気感が、私の神経を逆撫でる。
「やっぱり夏目先輩が、須藤さんたちのこと、扇動してたみたいだった」
「ああ」
依央は特に驚いた様子を見せなかった。多分、彼も同じ結論に達していたのだろう。
途端、生徒会室でのあの出来事を思い出す。夏目先輩が私を無理矢理ソファーに寝かせながら囁いた、あの脅迫めいた呪文を。
「依央は、何を知ったの?」
「お前とほぼ同じだよ。それに、色々と見えてきた」
「それを教えてはくれないの?」
「……」
依央が突然黙り込むので、私はどうしようもなくなってしまった。そして彼はひとしきり頭を悩ませた後に、深く息をついた。
「ごめん、俺もちょっと整理しきれてないんだ」
でも、と彼が言葉を付け加える。
「明日、夏目先輩のところに話をしに行こうと思う」
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