9人が本棚に入れています
本棚に追加
依央が夏目先輩のところに行く、と言ったので、私は思わず依央の腕を掴んだ。
「依央、危ないよ」
だって、夏目先輩、何するかわからないし、と言葉を付け加えると、依央はすこしだけ驚いた顔をしてから、はあ、とため息をついた。
「でも、いつかは解決しないといけない問題だろ」
「そうかもしれないけど……」
「それに、お前だけの問題じゃないんだ」
だから、俺は行くよ。
そう強く言い放つ彼を見て、私は何も言えなくなった。
けれど、依央が夏目先輩とふたりきりになるのが何だか怖く感じられて、私は依央の腕を掴む力を強めた。
「依央……私も行く」
「は?」
「私も夏目先輩のところ、行く」
彼の顔をまっすぐ見つめる。彼も目を丸くしながら、同じようにこちらを覗き込んでいる。
「お前こそ、危ないだろ」
「でも、私がいなかったら、そもそも夏目先輩は依央に会ってくれないかもしれないよ?」
「……」
私の言葉に依央は黙り込みながら、それでも納得した素振りを見せている。
私だけの問題じゃないって依央は言っていた。それなら尚更、私は夏目先輩のことを知らなければならない気がする。
今まで、人の悪意とか好意とかいったものに興味を抱くことはあまりなかったが、その人の悪意とか好意とかいったしがらみから、逃れることはどうやらできないらしい。
私も、そろそろ変わらなければいけないのかもしれない。
決心を固める私を見て依央がどう思うのかはわからないが、ふわりと揺れる彼の視線が、やっとこちらを向いた気がした。
最初のコメントを投稿しよう!