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「さて、用事が済んだなら帰ってくれない?」
夏目先輩が依央に向かって、振り払うような仕草をしてみせる。
「夏目先輩。先輩の気持ちとかどうでも良いんで、とりあえずマナのこと脅すの、やめてくれませんか」
「はいはい、だから早く出ていってくれよ」
いつもの調子で先輩が依央の言葉を受け流していく。先輩の言葉は、きっと真意じゃない。
多分、このままでは、かえって先輩を暴走させてしまう気がする。依央に口を割った須藤さんに対して、夏目先輩からの脅迫がさらに強まりそうな、そんな予感がした。
依央の方もそれをわかっているみたいだった。
震える手を両手で包み込む。色々な感情が湧き上がってきて、どうしようもなく視線を泳がせていると、依央がこちらをちらりと向いてから、小声で大丈夫だから、と言った。
「先輩って、推薦で大学決まってますよね?」
依央が先輩にそんなことを言った。3年生のこの時期、もう夏目先輩は有名私大への進学を決めていたらしい。
「そうだけど?」
首をかしげながら足を組み直す夏目先輩が、目を細めた。
すると依央が、近くの机の上に、ごとん、と自分のスマホを置いた。依央の手が、それに触れる。
『へえ。もったいぶらないで、早く出しなよ』
『そんなに出すのが憚られるようなものなの? その動画は』
依央のスマホから、すこしノイズがかかったような、夏目先輩の声が聞こえてきた。
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