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玄関の扉が、聞き覚えのあるノックの音を鳴らしたのを聞いて、私は数秒、固まったまま動くことが出来なかった。その扉の向こうにいる人が誰なのかを知っていたからだった。
そこにいるのは、祥平だ。
昨日来たばかりなのに、どうして。そんな思考が巡るけれど、別に2日連続で祥平が家を訪れることくらい、今までにだって何度もあった。
けれど、今は祥平に会いたいと思わなかった。先ほど夏目先輩と依央のところで、須藤さんのことについて話した後なのだから、件の祥平に会いたいだなんて余計に思うわけがなかった。
だからこそ、私は返事をすることも、その場から立ち上がることもしなかった。せめてもの抵抗だったつもりなのだが、玄関の扉は私の意思に反して、ギイ、と開く。玄関のドアの鍵が壊れていたこと、そしてそれを祥平が知っていたことを思い出して、私は最悪な気分になった。
制服姿をした祥平が、私の前に現れる。
「いるなら返事くらいしたらどうなの」
「……ごめん」
「体調悪いのか?」
「すこし」
ぶっきらぼうに言葉を放つ祥平に対して私が投げかけた言葉も、十分冷たかったろうと思う。けれど私は、今目の前にいる彼に優しくできるほど強い心を持っていないし、持とうとも思わなかった。
祥平は、コンビニのレジ袋をテーブルの上に置いて、中からおにぎりとか、お菓子とか、菓子パンだとか、そういった食べ物を取り出していく。
すこしだけ、空腹感を覚える。
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