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普段は食べないような、甘ったるい味の菓子パンがなぜか無性に食べたくなったので、私は無駄に砂糖がまぶされたドーナツの袋に手を伸ばした。その袋を手で破りながら、いただきます、と小声で呟く。
結局、祥平に会いたくないと思っていても、こうやって彼が食べ物を持ってやって来てくれれば、私は彼を家の中に入れてしまうし、私は彼から与えられる恩恵を受けてしまうのだ。
私は依央の言葉を思い出していた。
『お前は基本的に被害者だけど、お前のその男に対する中途半端な態度が、事態をより悪化させるって、少しは自覚した方が良い』
ああ、中途半端な態度って、こういうことなのかも知れないな、と考えた。
私が流されるがままに、手を差し伸べてくれる祥平に甘えて、彼の周囲の状況に目を向けてこなかったから、こんなことになってしまったのかも、と思うと、ドーナツを食べ進める手が止まってしまう。
「どうした。食欲なくなった?」
手を止めた私を見かねた祥平が、そんなことを言って私の顔を覗き込んできた。彼がそう勘違いしてくれるのなら都合が良かったので、私は首を縦に振った。
けれど、彼の表情が曇る。それを認識した瞬間に、何かを誤ってしまった、と思ったけれど、何をどう失敗してしまったのかがわからず、私は黙って祥平の顔を見続けた。
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