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祥平の表情が穏やかではないことは理解できたが、どうして祥平がそんな顔をしているのかさっぱりわからず、私は彼の瞳を覗き込んだ。
「祥平?」
「……」
私からの問いかけに、彼は答えない。なんとなく、手に持った菓子パンの袋をテーブルの上に置いてみる。
「なあ、どうして」
「え、どうしてって、何が?」
「どうして、食欲ないわけ?」
えっと、と言葉を詰まらせる。先ほど祥平に食欲がなくなったと答えたのは、ただ祥平にそう尋ねられたから頷いただけで、深い意味はなかったのに。
面倒だな、と思いながら、もう動かないテレビの画面についた傷を眺めていたときだった。祥平が、私の腕を強く掴む。
「なあ、お前が俺の前で食べてくれなくなったら、俺はどうしたらいい」
「どうしたの、祥平」
「別に、どうもしてない」
祥平の様子がおかしい。私は床に空いている方の手をついて、身体を祥平から少し離した。けれど、私の腕を握る祥平の手は強くなるばかりで、うまく彼を振り払うことができなかった。
彼は私の腕を思い切り引いて、私を自分の方に引き寄せたかと思えば、そのまま私を床へと押し倒した。
彼がこんなにも力強く私に触れるのは初めてだった。
掴まれた手首が、じわりと痛む。痛いのは、手首だけじゃないような気もする。
非常階段の1段目に腰かけて、嫌がらせを受ける私をどこか他人事のように眺める須藤さんの姿が脳裏にちらつく。祥平の元恋人だった須藤さんの姿だ。
ごめんなさい、という言葉が頭に浮かぶと同時に、私の唇には祥平の唇が触れていた。
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