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甘ったるい菓子パンの砂糖のにおいが鼻について不快だった。
ああ、祥平って、私のことが本当に好きなんだ。
そう思うと、吐き気がする。最近は特に色々なことが起きすぎているのだから、祥平までそんなことを言うだなんて、いい加減勘弁してほしい。
「祥平、ごめんなさい」
声を震わせた私を見て、彼は私の肩を掴む手の力を強めた。
ああ、どうしたら良かったのだろうか。やっぱりあれもこれも、私が悪かったのだろうか。
彼が顔を近付けてくる。キスされる、ということを認識した瞬間に、身体が強い拒絶反応を示した。
唇を噛みながら、顔を横に逸らす。すると祥平が片手で私の頬に手を添えて、私の顔を正面に向かせた
「どうして? お前は俺のこと、どうでもいいわけ?」
「そんなわけじゃ……」
「俺、お前のことが好きだよ。だから、もうどこにも行かないでほしい。なあ、俺のことだけ見てほしいって願ってしまう俺は、傲慢なのか?」
「ちが、」
瞬間、祥平の唇が、私の唇を塞いだ。
彼の舌がこちらに迫ってくるので、私は唇を強く噛み、口を固く閉ざしてそれを拒んだ。
祥平の顔が一瞬だけ離れる。
「依央、たすけて」
そんな言葉がうわごとのように、ふと口から滑り出した。どうしてなのかはわからない。
そして、全く発するつもりもなかった言葉が、どうしようもなく口から溢れ出したとき、私はひどく後悔した。
目の前にいる彼が不服そうな顔をしていたからだ。
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