第4章 変性

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◇  あの後の放課後、帰宅してしばらく経ったころ、依央が私の古臭いアパートに、コンビニの袋を持ってやってきた。  嫌じゃなかったら上げて欲しい、と彼が言うので、私は二つ返事でそれを受け入れた。断る理由がなかった、というのが第一の理由で、依央の持つコンビニの袋からゼリー飲料が覗き見えた、というのが第二の理由だった。  あんなことを言った後で、彼がこんなことをする理由がわからなかった。  彼はテーブルの上にコンビニのビニール袋をがさりと音を立てて置くと、その中からゼリー飲料を2つ取り出して、こちらに投げてきた。私がいつも飲んでいる味ではなかったけれど、彼の好意がなぜだか嬉しかった。  彼はこちらにゼリー飲料を投げるばかりで、それを飲めだとか、そんなことは何も言わなかった。ただ彼は、私の向かい側に座って、その袋の中から冷たいかけうどんのパッケージと割り箸を取り出し、自分の前に置いた。 「依央、これ良いの?」  私はゼリー飲料のパッケージと依央の顔を見比べながら、恐る恐る尋ねる。  彼はうどんのパッケージを剥がしながら、ああ、と気の抜けた返事をした。 「祥平、もう来ないんだろ」  昨日、私を置いて帰って行った祥平の顔が思い出される。一応、昼休みに話したことについて、依央は依央なりに心配してくれているらしかった。 「……うん」  口の中に、冷たいゼリーの感触が広がる。
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