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静かで簡素な食事が始まってから、少し経った頃だった。
「マナのこと、どう思った」
うどんを割り箸で掬い上げる手を止めて、依央がそんなことを尋ねてきた。その瞬間、私は急に食欲がなくなってしまって、ゼリー飲料に蓋をした。
「須藤さんのこと?」
「そう」
「……どうしたらよかったのかなって、考えてた」
自分の目が泳いでいる感覚だけははっきりとわかった。彼は、そうか、とだけ言って、箸につままれたうどんを口の中に押し込んでいる。
「ずっと、須藤さんたちが私に嫌がらせをする理由なんて、考えたこともなかったから」
「……」
「私って、無責任だったんだなって、思った」
私がそもそも、彼女のいた祥平と仲良くならなければ、とか、夏目先輩の気持ちに早く気づいていれば、とか、そんな後悔ばかりが募ってしまう、と、
そんなことをつらつらと語る。
そして、私が全ての言葉を吐ききった後、依央は少し間を置いてから、その唇を動かした。
「そこまで考えが及んでるなら、別に無責任じゃないと思うけど」
「そうかな。今まで、たくさんの人を傷つけてきたのに」
「……確かにお前は、少々鈍かったかもしれないけど」
「……」
「でもお前だって、色々傷ついたんだと思うよ」
今更泣く気にはなれなかった。手のひらに伝わるゼリー飲料の温度がぬるくなっていて不快だったので、私はそれをそっとテーブルの上に置いた。
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