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痛い、やめて、と何度も必死になって懇願すると、彼は私から顔を離した。鏡越しに彼の顔を見ると、その顔はひどく歪んでいた。
「祥平と、どこで会った?」
「わたしの、家」
「そこで何した? まさか、飯食べるだけで終わるわけないよな?」
その、まさかなのだ。私は祥平と、ご飯を食べる以外のことは何もしていない。
なのに、綾人くんはそれを信じてくれない。彼は、私と祥平がそういう関係にあると疑ってやまないのだ。
必死になって首を横に振る。何もしてないです、と震える声で訴えても、彼は私を解放してくれなかった。
「お前さ、マジでむかつくんだよ。飯くらい、俺だって食わせられるんだけど」
耳元で囁かれる彼の声がびっくりするくらいに低い。
ごめんなさい、と謝罪を繰り返しながら、心のどこかで、そんなことを言われても困る、と思っている自分がいた。
私は祥平とじゃないと、食べることができない。けれどそれは逆も然りで、私は綾人くんにしか身体を預けられないのだ。
「祥平なんかよりも、俺の方が美味い飯食わせられるんだけど? 金なんていくらでもかけてやるよ」
「……ごめんなさい」
「その謝罪は、いらないってこと?」
仕方ないじゃないか、と思った。綾人くんはきっと、平気で食べ物を残したり、だらだらと食事を摂ったりする私に苛立ちを覚えて、そして私を咎めるにきまっている。
無理だ。私は目の前にいる彼と一緒に、食欲を満たせそうにない。
恐る恐る頷くと、綾人くんは黙って私の手を引いた。彼に引っ張られるがままについて行く。そして彼は私を、思い切りベッドに突き飛ばした。
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