第1章 本能

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「待ってたよ」  放課後、私は生徒会室に足を運んでいた。夏目先輩は、目を細めながら私を中へと招き入れて、生徒会室の扉に内側から鍵をかけた。  夏目先輩は、この学校の生徒会長だった。そのおかげなのかはわからないが、夏目先輩は自由に生徒会室を使うことができるらしい。下校前に鍵を返せば、中で何をしたって良いんだよ、と以前先輩は私に教えてくれた。 「あれ、またそのスリッパ履いてる」 「……はい」 「またとられたの?」  首を縦に振ると、先輩は苦笑いを浮かべた。 「それは災難だったね。買ってあげようか?」 「いいんです。どうせまた、なくなるから」  先輩の言葉を受け流しながら、私は壁際のソファーに座る。それを見かねた夏目先輩が、棚から黒いブランケットを取り出した。 「ふうん。結構な嫌がらせなのに、きみ、いつも平気そうな顔してるよね」 「……そうでしょうか」 「うん。そう見える」  ほら、と言って、先輩は手に取ったブランケットを私にかけてくれた。私はソファーに横になりながら、与えられたブランケットにくるまって、それをぎゅっと握りしめる。  夏目先輩は私のそばにしゃがみこんで、私の頭をそっと撫でた。先輩の手があたたかくて気持ちよかった。 「きみにとっては、嫌がらせなんかより、眠ることの方が大事なんだ?」 「そうかも、しれないです」 「良いんじゃない? 眠っている間は、嫌なことなんて考えなくてもいいしね」 「……」  頭がぼうっとしてきた。先輩のことをぼんやりと見つめると、彼は満足そうに笑ってみせた。
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