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しんとした家の中で、聞こえてくるのは隣人の生活音ばかりだった。私は布団を頭からかぶりながら、スマホを見ていた。誰からもメッセージは届いていなかった。
トイレに立ったとき、少し立ちくらみがした。目の前がちかちかして、思わずその場に座り込む。頭がくらくらして、身体に力が入らなくなる。
そろそろ、まずいのかも、と思って、私はポケットに入れたスマホに手を伸ばした。
やっとの思いで画面に指を滑らせた後、私はスマホを耳に押し付けた。
無機質な呼び出し音がしばらく鳴ってから、急にその音が途切れ、電話の向こう側から人の声が聞こえてくる。
『もしもし? どしたの、こんな時間に』
「祥平、私だけど」
『それはわかるよ』
「……ごめん」
それで、何、と電話越しにぶっきらぼうな声が聞こえてくる。
「なんか、ふらふらするの」
『そう。今ひとり?』
「うん」
『さすがにもう時間遅いから、明日の朝買い物したらそっち行くから、今は横になって休んでて。眠らなくてもいいから』
わかった、と返事をすると、電話の向こう側にいるひと、祥平はすぐに電話を切ってしまった。スマホから音が消えて、私はまたひとりになった。
スマホで時間を確認すると、いつの間にか日を跨ぎそうになっていた。
私は祥平に言われた通り、布団にくるまって横になった。さっき夏目先輩のところで眠ったので、ちっとも眠くなかったし、眠ろうともしなかった。ひとりでこの家で眠るのが怖いのだ。
私は、遠くの一点を見つめながら、夜が明けるのを必死で待ち続けた。苦しいほどに長い夜だった。
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