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目の前にいる男、松田終は、高校時代のクラスメイトである。
「ま」つだと、「み」なせ。出席番号は隣同士。
彼とはそこまでたくさん絡んだことはなかったけれど、出席番号順で当たり前に前後になった席で長い間プリントを回したり回されたりしていたから、顔くらいはきちんと覚えている。
確実に言えるのは、「そんな彼が実は片思いの相手だった」とか、「当時付き合っていた元彼で」とか、「恋愛相談をするくらいに仲の良い男友達だった」とか、そういう青い春を感じさせるような関係性にはなかったということ。
顔見知り。知り合い。クラスメイト。それ以上でも以下でもない。当たり前に気まずい。
どうやら彼もそのようだった。しきりに私の顔をまじまじと見ては、まじか、と戸惑った顔をしている。
「えっと……どうしよ、お店予約しちゃってるから、行ってみる?」
「……そうだね?」
ぎこちなく隣に並んだ。この場で予約をキャンセルさせるのも私の良心が傷む。だけど何を喋ったら良いかはわからない。彼との接点は連続した番号ただそれだけだったのだ。
それに、久しぶりの再会で懐かしさごと楽しむためには条件がある。
その一、当時仲が良かったこと。
そのニ、互いのコミュニケーション能力が高いこと。
その三、相手に後ろめたいことがないこと。
今回のケースは最初から頓挫している。特筆して仲が良かったわけでもなく、ふたりとも社交性はそこそこ。加えて私は彼氏がいるにも関らずアプリをやっていたという罪悪感持ち。
仕方がないので、1軒目だけ行ってすぐに帰ろう、そしてこれは無かったことにしよう、とだけ決めて、松田くんのすこし後ろを歩いた。
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