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 松田くんが予約していたのは、フォーマルすぎず、すこし砕けた雰囲気のある、ちいさいながらもお洒落なイタリアンのお店だった。  初デートにしてはセンスが良かった。こんなことになってしまって店にも松田くんにも申し訳ない。私たちの空気感とは裏腹に、店内はどこもかしこも煌びやかだった。 「好き嫌いあるとまずいと思って、席だけの予約にしたけどどうする? コースも今から頼めるみたいだね」  しかもこの男、保身までかんぺきである。バックれられる可能性の高いアプリ上の約束で、コースの予約をしてしまうのは確かにリスクが大きい。それをこうやってうまく誤魔化せるところもさすがである。彼は生きるのがうまいなと思った。  彼はあまり手の加わっていなさそうなストレートの髪の毛を揺らした。  前髪の奥に隠れている眼光は全然強くない。むしろ何かを諦めているような目つきがなんだか怖かった。  だが、松田くんの容姿は別段悪くない。  高校時代も、松田くん自体は目立ちはしないものの、女子たちから格好良いと密やかに噂されていたのを覚えている。  だけど彼が特別に恋人を作っているところを見たことがなかった。作りたがらないようにも見えた。  そもそも彼には人を寄せ付けないような雰囲気があったのだ。だから、女子の誰かが松田くんに告白した、なんていう話は聞いたことがない。  そんな彼でも、マッチングアプリをしていたのだ。歳を経るごとに、恋愛とか、結婚とか、そういうことに関心が生まれてきたのだろうか。  そんなに驚く話ではあるまい。むしろよくあることだ。彼氏の一成だって、結婚を急いでいるように見えるのだから。
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