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「女体には興奮しないんじゃなかったの?」  ベッドパネルが示す時刻は24時12分。終電にはもう間に合わない。  しわのないシーツに私をおろした松田くんは、少し汚れてしまった衣服をひとつひとつ丁寧に脱がせてくれる。松田くんも同じように衣服を脱いでいった。スーツはきっと、私の吐瀉物で汚れてしまっただろう。  私の問いかけに、彼はにたりと笑った。 「吐瀉物のにおいがするから興奮する」  ぐ、と腰をそっち側に引き寄せられる。見ると、確かに松田くんは興奮しているようだった。彼は私の名前を呼ぶ。 「それにみことも、ちゃんと準備できてる」 「それは、そうだけど。そういえば、どうして呼び方変えたの?」 「こういうことするときは、下の名前で呼んであげると女の子が喜ぶんだって知ってから、そのまま癖になっただけ。嫌なら戻すけど」 「……いや、そのままで良い」  普通になりたくてもなれなかった彼の努力が痛々しかった。  松田くんもこれまで、普通の女の子を抱いて、無理に繕った自分を好きになってもらおうとしたことがあったのだろうか。普通になるために、相手が喜ぶことをして、それを抱いて自分も幸せになろうとしたのだろうか。それでも普通になれないことを自覚して絶望した夜が、あったのだろうか。  大丈夫だよ。私も一緒だから。  ぐ、と彼が入り込む。圧迫感とともにやってきた、胸いっぱいに広がる高揚。 「苦しくても、止めないからね」  返事をする前に、彼は迷いなく私の首を絞めた。きゅう、と細くなる呼吸器。これまでで一番きもちいい行為だった。
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