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「みこと。浮気しただろ」
穏やかなはずの日曜日の午後。眠りから醒めた私にそんな言葉を刺したのは彼氏である一成だった。
いつもは割と感情的な一成の声色が、言葉とは裏腹に何の表情も携えていなくて困惑する。
さっきまでふたりでドラマを見て、普通に過ごしていたはずなのに。途中でうとうとして眠ってしまったことを怒るならまだしも、急に浮気とか言われても困りますよ、あなた。
「……何のこと?」
浮気、という言葉を聞いて真っ先に思い浮かぶのは、私を身体的に、そして精神的に追い詰めた松田くんの姿。あれ、すごく良かったかな、なんていう回想に走りそうになって、慌てて意識を目の前の男に戻す。浮気を疑われていたんだっけ。
浮気の覚えはたくさんあるけれど、それを悟られるようなへまをした覚えはなかった。
不思議に思って視線をずらすと、一成が私のスマホを持っているのに気付いた。
ぞく、と腰に走る不快感。
……なるほど、そういうこと。
眠っている間に見られたのか。でも彼はスマホを開けるためのパスワードを知らないはず。なんだか事態が読めない。
私のスマホを握る一成の手と、彼の顔を見比べる。部屋は重苦しい空気につつまれていて、呼吸するたびに肺が質量を増していく。
しらを切ったまま何も言わない私に痺れを切らした一成が、眉間にしわを寄せながら言い放った。
「マッチングアプリの通知来てるけど。なんでこんなの入れてんの?」
目の前に差し出されたのは、アプリの通知が表示されたロック画面。新着メッセージがあります。だそうだ。
……通知を切り忘れていたのか。
これだから慣れというものは身を滅ぼすのだと、あれだけ肝に銘じていたはずなのに。愚かじゃん、私。
後学のために記しておこう。
昔、それこそマッチングアプリを始めたばかりのころは、一成と会うたびにかんぺきな証拠隠滅を図っていた。
だけど時間が経つにつれ、浮気をしている状況にも慣れて、大丈夫である場数を踏んできた。バレたらどうしよう、から、どうせバレない、に変わるのだ。些細な油断がこのような事態を生む。
100回中100回が大丈夫なら101回目も大丈夫だと思ってしまうのが人間の浅はかなところ。実際はいつだってバレるかバレないかの1/2なのに。
「あのさ、なんか言えって」
「……ごめんなさい」
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