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身体を重ね、彼だけが果てる、という一方的な行為に、ふたりとも疑問を抱くことはなくなっていた。
「こころで繋がってる感じが幸せだから、それだけで満足しちゃうんだよね」
以前そんな台詞を吐いたのは私の方だった。もちろん方便である。こんな薄っぺらい行為で満足できるなら苦労していない。
だけど一成はきっと、私のことを、あまり性欲の強くない女の子だと思っているのだろう。
——否。むしろ逆だ。
解放できない自分の欲望を、心の中で飼っているのだ。
それはそれは、どす黒くて気持ち悪くて穢れたもの。触れたものすべてを飲み込んでしまうような嗜癖は反社会的である。
わたしはその一切を隠している。恋人どうしとはいえ、相手に知られたくない秘密があったって良い。余計なことは言わない方がうまくいくこともある。
目の前で、一成がティッシュを丸めたごみを捨てている。彼の抜け殻は妙に生々しかった。良いね。異性に興奮できるあなたは至ってノーマル。
ベッドで横になってその様子をぼうっと眺めていると、処理を終えた一成がこちらにやってきてわたしの頭を撫でる。
「そろそろさ、同棲の話、ちゃんと進めようか」
そういえばそんな話もあったな、と思い起こして、わたしはしずかに頷いた。
彼はそろそろ、関係性を前に進めたいらしい。
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