3.喫茶店のアップルパイ

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3.喫茶店のアップルパイ

「いらっしゃいませ〜」 土曜日の午前11時半。 お昼前のこの時間くらいから、バイト先の喫茶店は一番のピークを迎え、慌ただしくなる。 「ご注文はお決まりですか?」 千秋と二人で接客と配膳を分担しながら、お客さんを待たせることのないよう、精一杯体を動かす。 特に今日は忙しく、普段なら交代で休憩を取る時間になっても客足が減らなくて、結局閉店時間が近づいた午後6時頃になるまで、働きっぱなしになってしまった。 閉店作業をあらかた終わらせて一息ついた頃、店長のおじいさんが申し訳なさそうに出してくれた、二つのアップルパイ。 「休憩も取らせてあげられなくて申し訳ない……。今日は助かったよ、ありがとう。二人とももう上がってくれて大丈夫だからね。良かったらこれ、食べてね」 働いた分の給料は貰っているのに、店長は忙しかった日はいつも、何かスイーツを食べさせてくれる。 アップルパイは店の人気メニューで、私ももちろん大好きだ。 「店長、俺達はバイトでお給料も頂いてるのでそんなに気を使わなくて良いんですよ」 「いやいや、二人のおかげでお客さんが増えたみたいなものなんだから、本当に感謝してるんだよ。ありがとう」 優しい店長が、穏やかな笑みでそう言う。 元々この店は、常連のおじいさんやおばあさんが訪れては店長や常連さん同士で話をしたりして同じお客さんが長く滞在しているような、ゆったりした雰囲気の喫茶店だった。
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