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「ごめんね、聞く気は無かったんだけど聞こえちゃって……。今の、彼氏?」
後ろを振り向くと、そこには控えめな様子で立っている千秋が居て、「大丈夫?」と優しい声で言われたものだから、パニックになっていた私は取り繕う事も忘れてオドオドと答える。
「あ、彼氏なんですけど、なんか凄く怒ってて……」
「うん、申し訳ないけど声が大きくて全部聞こえてた。ちょっと乱暴な感じしたけどいつもあんな感じ?」
「い、いつもは、そんな、こと……」
我慢できず、涙がぽとぽとと零れる。
当時は仲良くもないただのバイト仲間だったのに、千秋はすごく心配してくれて、泣いてる私の背中を優しく撫でてくれた。
「し、椎名さん、ごめんなさい、突然こんな……」
「ううん、大丈夫。あんな風に言われたらびっくりするし怖いよね。当然だよ」
涙が止まらずしゃくりあげながら喋る私の言葉をゆっくり聞いてくれて、まるで子供をあやすように、優しく優しく慰めてくれる千秋。
背中を上下する手が暖かくて、徐々に私の気持ちも落ち着いてきた。
と同時に、彼氏が『俺が辞めさせるから待ってろ』と言っていた事を思い出す。
それってつまり、今からここに来るって事……?
サーっと、顔から血の気が引く。
あんなに怒ってた人がここに来てお店の人に何か言おうものなら、迷惑なんてレベルの話じゃない。下手したら警察沙汰になるかも。
そんな事になったら、もう、本当に取り返しがつかない。
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