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彼氏の家とバイト先は、せいぜいかかって30分程度の距離だ。
うかうかしていたら、彼氏がここに着いてしまう。
「あ……私、彼氏の所に行ってきます」
「……え?」
思考がまとまっていないけど、彼氏をここに来させたらまずいことだけは分かる。
半ばパニックになりながら、慰めてくれていたことのお礼も言わず、荷物を持ってドアに向かおうとする私の腕をグッと掴む千秋。
振り向くと、鋭い目で私を射抜く、千秋が居た。
「……本気? 片岡さんの彼氏の事あんまり悪く言いたくないけど、あんな言い方する人の所に一人で行くなんて危ないよ」
「で、でも、ここに来てしまったら皆さんに迷惑が……」
「だからって、自分を犠牲にするの? 何かあってからじゃ遅いんだよ」
「で、でも……」
千秋は私の事を思って引き止めてくれているのに、この状況を何とかする方法が思いつかなくて折角止まった涙がまた込み上げてくる。
混乱している私に気づいてか「とりあえず落ち着いて」と椅子を持ってきてくれる千秋。
それに従って大人しく座るけど、頭の中はさっきの彼氏の怒号でいっぱいだ。
「……片岡さんの彼氏は、どれくらいでここに着きそう?」
「あ、30分もかからないかと……」
「そっか、あんまり時間はないね」
そう、あまり時間が無い。
……やっぱり私にできることは、彼氏がここに着く前に会いに行って説得することじゃないかな。
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