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「どう言った間柄ですか?」
「彼氏だよ、彼氏。遅いから迎えに来たんだわ」
迎えに来た? 辞めさせるって言ってたのは冗談だったのかな。それなら、私が出ていった方が円満に解決するかも……。
そう思って荷物を持ちかけると、ブブ、とまたスマホが振動する。
『男の店員に止められてるから店の前まで出てこい。ちゃんと辞めるって言えよ。言うこと聞け』
……違う、私の口から"辞める"って言わせようとしてるんだ。
やっぱり出て行っちゃいけない、と、鞄をギュッと抱きしめ、小さくなって椅子に座る。
彼氏と千秋の会話がしっかり聞こえるよう窓越しに耳をすませていると、「え!?」と彼氏が驚く声が聞こえた。
「い、今、なんて……!?」
「ですから、片岡さん、休憩室で倒れていたんです。何やら電話をされてたようで、耳にスマホを近づけたまま倒れていて、もうすぐ救急車が来ます」
「う、嘘だろ……!?」
「本当ですよ。親御さんにも連絡しましたので、疑うなら片岡さんのご両親に確認してみてください」
彼氏なんでしょ? と、冷静な口調の千秋と、狼狽える彼氏の声。
「それとも、救急車が来るまで待たれますか?」
「い、いや……その……、い、一旦帰ります……」
千秋の言葉に怖気付いたように勢いが無くなっていき、彼氏は逃げるように、来た道を戻って行った。
……あんなに大人しく帰るなんて、椎名さん、すごい……。
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