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IT大臣が徐に口を開く。
「情報が漏れているのか『東京に恐竜が来るかも』って考えた国民が続々と飛行機に乗ってるよ。行き先はわからぬままに。横田だろうと、羽田も成田も空港はどこもごった返してるよ、首都高も地方へ逃げようと渋滞だ」
「人の口に戸は立てられぬ。特にこのインターネットとSNS時代だと余計にな」
「恐竜の姿、放送されているからなぁ…… どこぞのテレビ局がずっと撮影しているし、今ではスマホを持っている皆がカメラマン。テレビや動画やSNSを見ていれば進行方向が北だと気づく者はいよう」
すると、外務大臣が挙手を行った。
「あの、諸外国からは『恐竜の生き残りとして捕獲して欲しい』との要請が。それと動物保護団体からも『絶対に殺さないでほしい』と嘆願が」
国土に恐竜の侵攻を許していない奴らが他人事をよくも! こちらはいきなりの国家存亡の事態を前に困惑するばかりなのに、苛々とさせてくれる!
総理大臣は拳で椅子の肘掛けを思い切り叩きつけた。
「知らんっ! 目標はただちに殺処分! 作戦は防衛大臣に一任する! ただいまより恐竜に対する攻撃作戦を『チクシュルーブ作戦』とする! 作戦に参加する自衛隊員の健闘を心から祈る!」
チクシュルーブとは、6600万年前に恐竜を絶滅させた隕石の名前である。一度目の恐竜絶滅は隕石によるもの、二度目の恐竜絶滅(人類存亡)は人の手のものによると言う決意を込めての総理大臣のネーミングであった。
文部科学大臣は「恐竜を絶滅させた後に運良く蔓延れただけの、我々人類が隕石を名乗るとは烏滸がましい」とは思いながらも、二度目の恐竜絶滅作戦の一員に加わるのであった。
さて、やっと「ただいま、調査中です」以外のことを会見で言えそうだ。
ただし、その内容は国民の間では賛否両論が飛び交いそうな恐竜に対しての攻撃命令。その矢面に立たねばならぬのかと官房長官は溜息を吐きながら、立ち上がろうとすると隅の隅の席でこれまで沈黙を守っていた一人の大臣が挙手を行った。
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