ただいまの意味

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「あ、あの…… よろしいでしょうか」 その大臣は復興大臣。財務大臣と国土交通大臣が鷹のような鋭い目つきで睨みつける。 「何かね? 目下の目標は恐竜の侵攻を止めること。復興予算に関してはこれから考えることだよ。今はまだ復興大臣の出る幕ではない」 「そうですよ。まだ被害規模の概算も出ていないと言うのに」 復興大臣は二人に臆することなく、今起こっている問題点を述べた。 「恐竜に潰された人、家屋、田畑…… もう既に被害は甚大です。その被害が戦争や天災によって起こったものなら国の支援があって然るべきです。ですが、今回は被害を引き起こしているのは恐竜! 今回の被害者も保険会社に問い合わせているそうですが、前代未聞の事態だとか、よくわからないとかと明確な答えを得ることは出来ていないそうです」  復興大臣の選挙区は恐竜によって甚大な被害を受けた地域。復興大臣がこんなことを言い出すと言う事は、直接の陳情があったと言うことになる。 自分の票田だからと言ってこのような贔屓は良くないと思うのだがねぇ…… 財務大臣と国土交通大臣は冷ややかな目で見つめてしまう。 「国会だってそうだよ。今は何が起こっているかはわからない状況なのだ。君が陳情を受けたと言う選挙区の方にはこう言っておきなさい『ただいま、今回の事態に関しては対応を検討中』とな」と、国土交通大臣。 「恐竜に買って三日の家を潰されたという方もおります! 恐竜がこれまで歩いてきた道程の後にはこのような方達が多くいます! 保険会社もどの災害にも該当しないと払い渋りをされているそうです! もう彼らには『ただいま』と言う家すら存在しないのです!」 家がなければホテルに泊まればいいじゃないか。もしくは遠方の実家に身を寄せるなど色々方法はあるだろうに…… 財務大臣はそう言いたげな目で復興大臣を見下す。 復興大臣は引かない。 「激甚災害指定法を適用さえすれば助けられるのです! そうすれば、保険会社も重い腰をあげて『前例』として恐竜を激甚災害と認め……」 目下の問題は恐竜の東京都心侵攻を止めること。あの恐竜を倒すのに機関銃の弾丸は何発必要だろうか、ミサイルを何発撃たなければいけないのだろうか。防衛大臣にはなるべくローコストでの恐竜の殺処分をお願いしたい。 この後の恐竜の死体の始末にはいくらかかるだろうか…… 財務大臣の心配はかさむ防衛費のみ。増税も仕方ないと言うのに、国民の皆様からはまた文句を言われるのだろうな…… 溜息を()くばかりである。 「国道交通大臣も同じこと言っていたけど、目下は恐竜と言う脅威の排除が最優先。あんなのが存在していては復興どころではないのだよ。『ただいま、今回の事態に関しては対応を検討中』こう言っておきなさい。全てはこれからだ」
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