弱気な王と賢明な王妃は、元気強な王と、暴れ馬王妃

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 蘭は急いで、駆けつけた。  天蓋つきの豪華な寝台に、王は寝ていた。 「あなた、私のところへ援助するために働き過ぎて、倒れたんですって?」    蘭の声で目を開けた王は、驚いたが、すでに蘭が意味を知っていることに気づいて、恥ずかし気に頬を染めた。   あれから月日が経ち、この人は変わった。蘭も変わった。いかにお互い変わったか。その互いの違い、昔の違い。その差がおかしくて、蘭は内心、笑う。 「最初からそう言ってくれたら良かったのに。あなた、前より大人しくなったわね。いぜんは強気だったのに。米を出すから、俺の嫁になれとでも言ってくれたら良かったのに、米だけ送ったりして。お互い、変わったわね」  言わずにおれない。何を考えているのだろう。もっと気持ちを表してくれたら良かった。それだけのものなのに。 「国王とは孤独な生き物なのだ。決断も重い。多くの国民も守らねばならない。弱気にもなる。以前など、いつのことだ、私が強気だったのは、皇太子になるまで。兄の病後をきっかけに、国を率い、多くの家臣を束ね、責任ある仕事を任された。昔とはぜんぜん違う。そなただって、前とは違う、跳ねっかえりだった。今は賢明で慈愛ある王女だと、ぷっ」  思い出したのか、王はくくっと笑った。 「あー、やっぱり憶えてたんだ。それならそうと、言ってよ」 「あの時のそなたは強烈だったからな。忘れるわけがない」  蘭は赤面する。そう思って今まで、いったい私のことどう見てたのかしら。 「私だって、あの頃は気の向くまま、好き勝手生きてたの。でも、多くの問題があることが社会にあると分かってから、人のために尽くそうと心を入れ替えたの。だから、今では違う」 「そうなのか?」  まだ笑っている。それは確かに、人はそう簡単に子供の頃が抜けて行かない。だが、人は変わるもの。  それは王もそうだ。時々、ぎらっとあの時の陰険な睨みが出る。だが、今は責任ある仕事を任され、お互い成長したのだ。 「そう。昔の私とは、すっかり。だから、聞くけど、こうなったら、聞かせて、私を欲しいと言ったのは、国のため?」 「昔のそなたも悪くなかったぞ。あの頃から、私はそなたを嫁にと思ってはいた。うるさくて、傲慢で、偉そうなお前は、無邪気で可愛かったからな」 「あなた、変わった趣味なのね、昔のほうを気に入るなんて」 「今もそこは変わってない。だろ?」  それなら、もう十分。蘭はにんまりする。 「だとしたら、私、あなたのそばにいる。あなたが大人しく、黙っているのなら、国が路頭に迷うわ。現にあなた、今、倒れたじゃない。この私がそばにいて、支えるしかないわね。黙って米を送られたら、国庫も負担だし、嫁にしたい人だって困るのよ。真意が分からず」  蘭のぶっきらぼうの物言いに、王は言葉の真意を読み取った。おずおずと、蘭を見る。 「頼む」  蘭も決断する気も持って、ここに来ている。この本当は強気なのに、弱気になった王を支えようと。 (了)
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