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そして、そんなことを、考えていると、葉尊が、
「…しかし、まもなく、それが、わかります…」
と、告げた…
顔に笑みを浮かべながら、告げた…
だから、
「…わかる? …なにが、わかるんだ?…」
と、聞いた…
聞かざるを得なかった…
「…リンの目的…あるいは、リンの正体…」
「…どういう意味だ?…」
「…リンの目的や、正体…その片方か、両方…それを、明らかにするために、父は、リンを連れて、この日本にやって来る…ボクは。父の来日の目的を、そう見ています…」
「…」
「…そして、それは、アムンゼン殿下もたぶん、同じ…」
「…同じ?…」
「…父とアムンゼン殿下は、似た者同士…二人とも、一筋縄では、いかない…」
「…」
「…素直に、感情を表に表すことは、ない…だから、怖い…なにを、考えているか、わからないから、怖い…」
そう言って、葉尊は、苦笑した…
私の夫は、苦笑した…
それから、
「…二人とも、苦労人…苦労をして、人生を生きています…父は…葉敬は、血の滲むような苦労をして、現在の地位を築きました…常人では、決して、できないことです…」
「…」
「…そして、それは、アムンゼン殿下も同じ…同じです…殿下は、お金の苦労は、なにも、ないと、思いますが、あの外見です…きっと、誰よりも、苦労したはずです…」
「…」
「…そして、その苦労を糧として、父も、殿下も、今の地位を築いた…並外れた苦労では、ないはずです…」
葉尊が、しんみりと、言う…
私の夫が、しんみりと、言う…
「…だが、それゆえ、一筋縄では、いかない性格になった…きっと、二人とも、自分の心の中が、読まれるのを、誰よりも、恐れている…」
「…どうして、恐れているんだ?…」
「…簡単に心の中を、他人に読まれれば、次に、どんな行動を取るのか、容易に、相手に、気付かれる…とりわけ、父のようなビジネスをしている者は、それでは、簡単に、相手に、邪魔をされたり、自分より、先に、自分の考えていたビジネスをやられる可能性も、高くなる…」
「…」
「…そして、それは、たぶん、殿下も同じ…」
「…どう、同じなんだ? アムンゼンは、お義父さんと違って、実業家でも、なんでもないゾ…」
「…先んずれば、ひとを制し、遅るるば、ひとの制するところとなる…」
「…」
「…物事は、まず誰よりも、先に、自分が、手が付けなければ、誰かに先を越される…」
「…」
「…ですが、それを行うに、当たって、一番、大切なのは、周囲に気付かれないことです…」
「…周囲に気付かれないことだと? どうっして、だ?…」
「…父も、殿下も、取り巻きが多い…二人とも、権力者だから、同じです…それゆえ、その取り巻きの中には、外部に通じている者も、多い…」
「…外部に通じている者だと?…」
「…ずばり、敵です…ライバルです…」
「…敵? ライバル?…」
「…そうです…だから、父も、うっかり、周囲に本音を漏らせない…そして、それは、たぶん、殿下も同じ…」
「…同じ…」
「…だから、二人は、似た者同士…二人とも、孤独な権力者です…」
「…孤独な権力者…」
「…二人とも、権力者ゆえに、その権力を利用しようと、思って、近付いて、来るものは、多い…だから、疑心暗鬼になる…容易に他人を信用しなくなる…つまり、猜疑心の塊になると、言うことです…」
「…」
「…そして、それは、たぶん、リンダやバニラも同じです…」
「…どう、同じなんだ?…」
「…二人とも、有名人…二人の立場は、形は、違えども、父やアムンゼン殿下と同じです…」
「…」
「…そして、それゆえ、みんなお姉さんを、好きなんだと、思います…」
「…どういう意味だ?…」
「…お姉さんは、あったかいんですよ…」
「…あったかい?…」
「…なにより、いっしょにいて、楽しい…」
「…私といっしょにいると、楽しい?…」
「…父も、殿下も、リンダも、バニラも、みんな孤独です…競争の激しい業界や、殿下のように、身分の高い人間でも、自分を利用しようとする人間が、周囲にいて、気が休まるときが、ないと、思います…」
「…」
「…そんなひとたちが、お姉さんと会うと、心底、ホッとするんです…」
「…ホッとする?…」
「…そうです…いわば、競争社会で、疑心暗鬼にとらわれた人間たちです…それが、お姉さんと会うと、ホッとする…ずばり、安らぐ…」
「…」
「…心が、キレイな人間に、誰もが、惹かれるんです…」
「…心が、キレイ? …私が?…」
「…いえ、心が、キレイと言うと、言い過ぎかも、しれませんが、お姉さんは、これまで、生きてきて、露骨に他人に嫌われたことは、ないでしょ?…」
「…それは、ないさ…」
「…ですよね…お姉さんを見ていれば、わかります…」
「…私を見ていれば、わかる?…」
「…ハイ…わかります…」
「…」
「…真逆に、嫌われる人間は、どこに行っても、誰からも嫌われます…」
「…どうして、嫌われるんだ?…」
「…大抵は、自分勝手とか、自分のことしか、考えてない人間が、多いですが、究極的には、ただ単に生まれつき、性格が、悪い人間が、多いです…」
「…性格が悪い…」
「…そうです…だから、どこに行っても、誰からも、際われる…嫌われる理由は、案外、単純なものです…」
「…葉尊は、どうして、そんなことが、わかるんだ? …お金持ちのくせに…そんな人間を見たことがあるのか?…」
「…ボクは、生まれながらのお金持ちでは、ありません…父は、苦労の末、今の地位を築きました…だから、最初から、お金持ちの家に生まれたわけでも、なんでも、ありません…」
「…」
「…そして、子供の頃は、父の会社に遊びに行って、さまざまな人間を見ました…だからかも、しれません…」
…そうなのか?…
初めて、聞いた…
これまで、そんな話は、聞いたことがなかった…
ただ、だから、わかった…
この葉尊…
ただのお坊ちゃまでは、ないということだ…
たしかに、これまで、謎だった…
なにが、謎かと、言えば、この葉尊…
お坊ちゃまぽくないのだ…
それなりに、苦労していそうなのだ…
それが、謎だった…
が、
今の発言でわかった…
この葉尊も、それなりに、苦労していたのが、わかった…
わかったのだ…
「…いずれにしても、もうすぐ、わかります…もうすぐ、結果が出ます…」
葉尊が、言った…
私の夫が、断言した…
それから、一週間が、経った…
葉尊の言葉通り、葉敬が来日した…
リンを連れて、来日した…
リンは、黒いサングラスをかけ、いかにも、芸能人という感じで、やって来た…
いかにも、芸能人といったオーラを全身から、発散させていた…
正直、誰が見ても、普通ではない…
普通の人間ではない…
なぜかと、言えば、派手過ぎるのだ…
日本で、言えば、キャバクラのお姉さんとか(笑)…
とにかく、普通では、なかった…
大げさに言えば、街中を水着一枚で、歩いている…
それほど、目立っていたのだ…
当然ながら、お義父さんは、一人ではない…
大勢の部下たちを連れている…
その中には、いかにも、お偉いと思える、中年男性もいるし、真逆に、ガタイのいい、若い男も、いた…
おそらくは、ボディーガードに違いない…
が、
しかしながら、その中に、リンが、いる…
紅一点いる…
だから、目立った…
余計に、目立った…
しかも、
しかも、だ…
リンは、お義父さんの近くにいた…
まるで、お義父さんの愛人のような立ち位置で、いたのだ…
しかしながら、それを、誰も、注意するものは、いなかった…
ということは、どうだ?
事前に、お義父さんの了承を得て、その位置にいるに、違いない…
いわば、お義父さん、公認…
台湾の大実業家、葉敬公認ゆえに、その位置にいるに違いないと、私は、思った…
思ったのだ…
私は、空港まで、お義父さんを出迎えたが、夫の葉尊は。来なかった…
仕事が、あるからだ…
夫の葉尊は、日本の総合電機メーカー、クールの社長…
29歳の若さで、大企業の社長の地位に就いている…
理由は、単純…
台湾で、台北筆頭という巨大メーカーを率いた葉敬が、倒産寸前に陥った、日本のクールを買収したからだ…
だから、社長として、自分の息子を送り込んだ…
だから、息子の葉尊は、29歳の若さで、日本の総合電機メーカーの社長になれたのだ…
普通なら、無理…
ありえないことだ…
29歳の若さで、大企業の社長になるなんて、外国なら、ともかく、日本では、不可能…
あり得ないことだからだ…
私は、リンダと、バニラ、そして、バニラの娘のマリアと、4人で、葉敬を出迎えた…
リンダは、学生時代から、葉敬に学費等の面倒を見て、もらっていた…
ハリウッドで、活躍する前まで、ずっと、生活の面倒を見て、もらっていた…
だから、リンダは、葉敬に頭が上がらない…
今現在、ハリウッドのセックス・シンボルと呼ばれるようになった今でも、ずっと、台湾の台北筆頭のキャンペーンガールを続けている…
葉敬に恩返しをするためだ…
今や、ハリウッドのセックス・シンボルとまで、呼ばれる地位に就いているのだから、知名度は、抜群…
ハッキリ言えば、今さら、台湾の企業の広告に出る必要はない…
なぜなら、リンダの知名度は、もはや、世界中に知れ渡っているからだ…
台北筆頭は、いかに、台湾で、知名度抜群といっても、所詮は、アジアの一企業…
もはや世界中に名を知られたリンダ・ヘイワースが引き受ける仕事ではない…
にもかかわらず、引き受けているのは、リンダの律義さ…
かつて恩を受けた葉敬に恩を返すためだ…
それゆえ、今も、空港まで、葉敬を出迎えに来た…
それとは、真逆の立場が、バニラ…
バニラは、葉敬の愛人…
60歳ぐらいの葉敬から、比べれば、23歳のバニラは、娘より、若いが、葉敬の愛人だった…
そして、二人の間には、マリアがいる…
マリアという娘がいる…
そして、この矢田トモコ…
葉敬の息子の葉尊の妻…
れっきとした妻だ…
だから、この4人で、葉敬を出迎えた…
来日した葉敬を出迎えたのだ…
が、
誤算があった…
それは、リンの存在だ…
いや、リンが、ここに現れたのは、想定内…
あらかじめ、わかっていたことだが、想定外だったのが、リンの行動…
あまりにも、露骨過ぎるのだ…
露骨に、お義父さんに、近寄り過ぎるのだ…
リンの態度を見て、当たり前だが、バニラの顔色が変わった…
明らかに、怒りの表情を見せた…
が、
それ以上に、怒ったのが、マリア…
バニラの娘のマリアだった…
「…なに、あの女…パパにデレデレして…」
と、マリアの怒りが、爆発した…
3歳の幼児ながら、気の強いマリアの怒りが、爆発したのだ(笑)…
<続く>
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