アトリエ・バン・ツヨシ

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 最初はこの方法がうまく行くと思ったのですが、友だちに意見を聞くことは友だちの時間を奪っていることになると、剛は感じました。また、色を塗るとき、色を混ぜることが多いのですが、その加減が人によって異なります。その加減を言葉で伝えるには、限界がありました。そのため、この方法を諦めました。  画塾の先生は、剛の才能を高く評価してくれて、親身にこう助言してくれました。 「色弱は欠点とは限らない、むしろ個性になるうる。君に見える色は君にしか表現できないのだから。ただ、風景画では君の色が生きないので、抽象画に転向した方がいい」  剛は、気づけばもう大学三年生でした。来年は就職という岐路に立たされます。その前に自分の進む方向を確立したい、そういう強い思いに押されて、抽象画を描き始めました。  斬新な色遣いは先生から賞賛されましたが、肝心の造形がうまくいきません。剛は有名な抽象画家たちの絵画を研究したのですが、いざキャンバスに向かうと、その造形は誰かの模倣になってしまうのです。やはり、自分には抽象画は向いていない、と気づき、風景画に戻ったとき、剛は四年生になっておりました。  剛は四年生の夏休みに一大決心をしました。  両親に、大学を卒業しても就職はしない、好きな絵の道に進むと宣言しました。三十歳まで何も言わないでほしい、それで芽が出なければ、実家に戻り就職すると約束しました。  画塾の仲間たちの大半は、大学を卒業すると絵の道を断念して、就職していきました。剛とほんの少数の仲間たちだけが、卒業後も絵の道を歩みました。  剛は、自分だけの風景を求めて日本各地に取材旅行に行けるように、時間の融通がきく警備のアルバイトに就き、さまざまな絵画のコンクールに応募する日々を送りました。
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