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生まれつき絵を描くのが大好きな少年がいました。紙さえあれば、何でも描いて喜んでおりました。
ところが、クレヨンを使うようになると、色遣いがちょっと変わっているのに、親や先生が気づきました。少年に――名前を伴剛(ばん・つよし)と言うのですが、ここでは剛と呼ばせてもらいます――色を変えるように言っても、聞き入れません。しまいには、親も先生も諦めてしまいました。
小学四年生になったときに、剛の色遣いが変わっている理由がわかりました。当時は必須であった色覚検査で、色弱と診断されたのです。
両親が、色弱について説明し、絵以外の楽しみを見つけるように言ったのですが、剛は従いませんでした。
中学や高校でも、美術部に入って絵を描き続けました。
高校三年生になったとき、剛は好きな絵の道に進むために美術大学への進学を希望したのですが、親は色弱だから絵で食べて行くことは難しいので、他の学部にするように説得を試みました。
剛は親の説得に耳を貸さず、美術大学に二度挑戦しましたが、合格できませんでした。
剛は、美術大学への進学は諦めて、東京のある私立大学の法学部に入学しましたが、絵への情熱が冷めることはなく、小さな画塾に入り、そこで仲間たちに出会いました。
剛は、色弱という弱点について仲間たちに相談して、克服する方法を考え出しました。
色弱の人は、赤と緑、黄緑と橙、緑と茶や灰色、青と紫などを混同しやすいのです。それならば、彩色する前に、自分が塗ろうとする色を友だちに言って、適当かどうか意見をもらうのです。
たとえば、りんどうの花の色を塗るときに、剛は青色の絵具を選ぶのですが、友だちは、青紫の方がいいよ、と言うのです。
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