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「私達は聞いてなかったけれど」
「⋯⋯⋯⋯ごめん」
学校で嫌がらせをされていることは誰にも言ってなかったから、彩香といとには随分と心配をかけてしまった。
「私、近くにいたのに気付かなくてごめんね」
「ううん。泉から聞いた。助けてくれてありがとう」
申し訳なさそうにするいとにお礼を伝えると、いとは控えめに口を開いた。
「⋯⋯何かあったら言って。少しかもしれないけど、力になりたいから」
「⋯⋯うん、ありがとう」
彩香が優しく微笑んでいるのが目に入る。
クリスマス以来、いとと私達の距離は確実に近くなっていて、お互いに良い関係を築けていると思う。
いとが私達に心を開いてくれているのが、うれしかった。
「それにしても、沙羅は彼らのこと知らなすぎるわ」
先程の泉の苗字のことを言っているのか、彩香が「ねぇ?」といとに同意を求めながらこちらを見る。
「そうだね、ちょっとは知ってたほうがいいかも?」
いとも苦笑いで頷く。
「⋯⋯そう?」
「そうよ。知らないって案外怖いものよ」
確かに、泉達の名前くらいは知っているものの、他のことは何も知らない。学校で他の生徒がうわさ話をしてるのを耳にするくらいだ。
泉と一緒にいても、泉も私もそんなに話す方ではないから会話もなく。
「いとも知ってるの?」
「うん。そんなに詳しくはないけど、少しはね」
まあ、知っていて困るものでもないから、この際聞いておこう。「じゃあ教えて」と彩香に言うと、
「まずは時雨ね」
と髪の毛を耳にかけながら、とても優雅に、それでいて妖艶に、長い脚を組んで形の良い唇を開いた。
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