嵐到来

2/22
前へ
/129ページ
次へ
「私達は聞いてなかったけれど」 「⋯⋯⋯⋯ごめん」 学校で嫌がらせをされていることは誰にも言ってなかったから、彩香といとには随分と心配をかけてしまった。 「私、近くにいたのに気付かなくてごめんね」 「ううん。泉から聞いた。助けてくれてありがとう」 申し訳なさそうにするいとにお礼を伝えると、いとは控えめに口を開いた。 「⋯⋯何かあったら言って。少しかもしれないけど、力になりたいから」 「⋯⋯うん、ありがとう」 彩香が優しく微笑んでいるのが目に入る。 クリスマス以来、いとと私達の距離は確実に近くなっていて、お互いに良い関係を築けていると思う。 いとが私達に心を開いてくれているのが、うれしかった。 「それにしても、沙羅は彼らのこと知らなすぎるわ」 先程の泉の苗字のことを言っているのか、彩香が「ねぇ?」といとに同意を求めながらこちらを見る。 「そうだね、ちょっとは知ってたほうがいいかも?」 いとも苦笑いで頷く。 「⋯⋯そう?」 「そうよ。知らないって案外怖いものよ」 確かに、泉達の名前くらいは知っているものの、他のことは何も知らない。学校で他の生徒がうわさ話をしてるのを耳にするくらいだ。 泉と一緒にいても、泉も私もそんなに話す方ではないから会話もなく。 「いとも知ってるの?」 「うん。そんなに詳しくはないけど、少しはね」 まあ、知っていて困るものでもないから、この際聞いておこう。「じゃあ教えて」と彩香に言うと、 「まずは時雨ね」 と髪の毛を耳にかけながら、とても優雅に、それでいて妖艶に、長い脚を組んで形の良い唇を開いた。
/129ページ

最初のコメントを投稿しよう!

191人が本棚に入れています
本棚に追加