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建物の中は、まるで外とは別世界だった。
「⋯⋯っ」
大きな音楽と、それに合わせて踊る男女。鼓膜の破れそうなほどの振動に、思わず大きく顔を歪める。
薄暗い室内に広がる初めての世界に、隣に立つ彩香に目を向ける。
繁華街にあるクラブの中、戯れる若い男女とは違い、1人場違いなほどの気品を漂わせる彩香だけが、切り取られたように浮いていた。
奥に進む彩香の後ろを歩いていると、突然後ろからぐっと腕をひかれて足を止める。
「ねえ、君たち2人で来たの?」
「あっちで一緒に飲もーよ。俺ら奢るし」
振り返ると、2人組みの男が笑いながら話しかけてきた。
その声が聞こえたのか、彩香がこちらを振り返る。
「そっちの子も一緒に!」
彩香の顔を見て、私の腕を掴んでいる男の手の力が強くなる。
「ほらほら、行こ」
私の腕を引っぱり強引に歩き出そうとする男と、もう1人は彩香の後ろに周りこんで肩に手をかけて誘導する。
こんなことをしに来たわけじゃない。ていうか行くとも言ってない。
目の前の男の手を振り払おうとしたとき、私の後ろで、それまで黙っていた彩香が口を開いた。
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