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「ごめんなさい。私たち、急いでいるの」
困ったように、申し訳なさそうに言う彩香の整った顔を見て、隣の男がぐっと息を呑む。
「じゃあさ、俺らも一緒に行くよ!」
「それから飲めばいーし!」
興奮したように早口で喋る男の力が緩んだ隙に、素早く腕を払って彩香のもとへ行く。
「まあ、一緒について来てくださるの?」
いつもより丁寧に、いつもよりお嬢様口調で話す彩香に、何も知らない男達がうれしそうに頷く。
「そんなの全然いいよ!」
「それで、一体どこに—————」
「上よ」
ピシャリ、浮かれた男達の言葉を遮って彩香が言い放つ。
「⋯⋯え?」
だけど理解していないのか、目を丸くして間抜けに口を開くだけで。
「ここの“2階”よ。ついて来てくれるんでしょう?」
カウンターよりも奥に見える階段を指差す彩香に男達の顔が引きつる。
「いや⋯でもそこは行かない方が⋯⋯」
「もちろん、知ってるわ」
この意味、わかるでしょう?
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