176人が本棚に入れています
本棚に追加
「⋯⋯言ってないの?私のこと」
彩香からの連絡には、私がここの生徒だとは気づかれてないと書かれていた。それは泉が知らせていないから。
私の問いかけに、泉は口の中のものをゴクンと飲み込んで、口を開いた。
「気づかれないために、あんな格好したんだろ」
だから、言ってない。
当然のようにそう言う泉に思わず面食らう。実はもう既に彩香の話はこの学校にも広まっていたから、私もタイムリミットが迫っていると思っていた。
⋯⋯でも、よかった。本当によかった。
泉は気まぐれで言わなかったのかもしれないけど、理由なんてどうでもよくて。結果的に私のことは気付かれていないのだから、心の底から泉に感謝する。
「これ、」
と、いつの間にかお弁当を食べ終わった泉が目線をこちらに向ける。
「明日も作って」
そう言ってからっぽのお弁当箱を私に差し出す。
「なんで?」
「うまかった」
「嫌って言ったら?」
無駄だと思うけど、一応拒否はしてみる。
「お前のことバラす」
ほらね、と心の中で呟きながら予想通りの返事にため息が漏れた。
最初のコメントを投稿しよう!