美しい獣

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私が再びクラブに行くことが出来たのは、それから1週間後のことだった。 これは「しばらく様子を見たい」と彩香から提案したこと。そしてこの1週間で状況は変わらなかったようで、ようやく彩香から連絡が来たのだ。 私も泉とお昼を過ごすこと以外には特に学校で変化はなかった。 お昼を過ごすといっても一緒に何かをするわけではなく、会話をするわけでもない。泉はお弁当を食べるとすぐに寝てしまうし、私はそのお弁当を回収して時間が来たら授業に出るという感じ。 お弁当がいいならコンビニにも売ってるのに、と泉に言ってみると、 「コンビニ弁当ばかりは身体に悪い」 なんていう予想外の返事が返ってきた。意外と健康志向らしい。 繁華街のクラブの2階、私と違い慣れた様子でこの中を歩く彩香の足は、ちょうど今開かれた扉へ向かう。 「時雨」 1週間というのは思いのほか長いもので、私のいない所では小さな変化がいくつか起こっていた。 ひとつは、彩香が本条達を呼び捨てにするようになったこと。きっと最初より、距離が縮まったんだと思う。 嬉しそうに、綺麗な笑顔を彩香が本条に向ける。 そしてもうひとつは、 「⋯⋯こ、こんにちは」 たった今、この部屋に入ってきたばかりの本条の後ろから現れたのは、沢原いと。 彼女がクラブに出入りするようになったことだ。
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