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控えめにそう言った沢原さんは、周りの視線から逃れるように、背の高い本条の後ろに身を隠す。
どうやら注目を集めるのが、あまり得意ではないようだ。
その後も本条と沢原さんの距離は近く、彩香は面白くなさそうにその光景を見る。
まあ、“好き”というのも嘘だから、実際は何とも思ってないんだろうけど。彩香は女優にでもなれそうな勢いだ。
初めてここへ来たときも、まるで本条のことを愛して止まないというような彩香の完璧すぎる演技に、内心かなり面食らっていたのだ。
というか。
「⋯⋯⋯」
意外なことに沢原さんは男達と仲が良いらしく、何人かと話したり、テレビゲームをしたりとかなり馴染んでいる。
彩香はその輪のなかに入ることはなく、静かにソファに座る私の隣を動くことはなかった。
⋯⋯打ち解けたと思ったのは、間違いだったのかもしれない。私が見る限り、彩香はこの部屋で1人ぼっちで。
私がいない間、ずっと1人でここに座っていたのだろうか。
そんなことを思いながら彩香を見ると、視線に気づいた彩香がにこりと微笑んだ。
「沙羅、大丈夫だから」
私の目を見て彩香が言う。
⋯⋯彩香にこんなことをさせていいのだろうか。
明らかに居心地がよくないこの場所に、彩香をいさせていいの?
そんな私の思いを全て分かっている、と言うように彩香は静かに頷き、立ち上がった。
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