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「おい、タケっ」と仲間に呼び止められるのも無視して、怒りを隠せない様子で1人の男が彩香の前に立つ。
あ⋯⋯この男、初めてここへ来た時、最初に私達に話しかけてきた男だ。
「この前から何様のつもりだよ!ここはお前の居場所じゃねえんだよ!!」
⋯⋯彩香は一体、何をやらかしたんだ。どうやらタケはこの1週間の不満が抑えきれなくなってしまったようで、彩香を前に勢いが止まらない。
最初はタケを止めようとしていた声も徐々に聞こえなくなる。
「出てけ⋯⋯」
彩香を睨みつけて言うタケに対して、彩香はじっとタケを見つめている。
「早く出ていけよ!!」
タケがドンッ、と彩香の肩を押す。
グラリと揺れた彼女の身体は後ろのソファに沈められる————————ことは無く、少しよろけた体制を立て直してから、彩香はようやく口を開いた。
「それだけかしら?」
「あ?」
「言いたいことはそれだけかと聞いているの」
余裕すら感じられる涼しげな瞳で冷静にそう言う彩香の声が、シンとした室内に響く。
「無いのなら、もういいわよね?あなたの声、大きくて耳が痛いの」
唖然とするタケの前で、彩香が顔をしかめて耳を押さえる。まるでバカにしているかのようなその行為に、タケの表情は険しさを増す。
「っ、てめえ!」
グイッ、とタケが彩香の胸ぐらを掴む。そのせいでタケよりも背が低い彩香は背伸びをしているようにかかとが浮く。
「離してくださる?」
だけど、この状況でも彩香の余裕な態度は変わらない。それどころか、更に笑みを深めてこう言った。
「そんなに興奮して、もしかしてあなた、あの子のことが好きなの?」
あ———————ダメだ。
そう思ったときにはもうすでに彩香の胸ぐらを掴んでいる方とは反対の腕、タケの握られた拳は振り上げられていて、私はそれを見て急いで立ち上がった。
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