美しい獣

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Side 彩香 一瞬の出来事だった。 「⋯⋯ぅ、ぐっ、!」 目の前でうずくまるタケという男と、タケを見下ろす沙羅。 私に向かってきたタケの拳は、私に触れる直前、沙羅によって停止を余儀なくされた。 タケの腕を掴んだ沙羅はそれを振り落とし、距離を詰めたかと思うと一瞬でタケは崩れ落ちた。 「おいタケ!っ、てめえ何した!?」 苦しそうに声を漏らすタケの周りに集まった男達の言葉に、沙羅は口を開かない。 「大丈夫。ちょっと“入っちゃった”だけよ」 しょうがない。沙羅の代わりに私が答えてあげましょう。 「言い忘れてたけど、彼女は私のボディーガードなの。だから正当防衛は許してね?」 そうは言っても、納得してないような戸惑いの感情を浮かべる男達。 まあ、それもそうでしょう。沙羅の動きは、明らかに素人の動きではない。 力では男性に敵わなくても、沙羅は相手の勢いや動きを利用して一撃で仕留める。護衛として、とても優秀で。 父が沙羅を採用したのは、沙羅の実力を認めたからで。 そうでなかったら、父はいくら私が言ったからといっても、ただの女子高生を西宮の警護になんてしない。 父は私のお願いは何でも聞いてくれる、なんて嘘を彼らがどこまで信じているかはわからないけれど、完全なる実力主義者の父が許すほどの能力を、沙羅は確かに持っていた。 「っ、ざけんなっ!」 うずくまっていたタケはそう言って立ち上がるけど、先程のが相当痛かったようで、その表情はやっぱり苦しそう。 時雨が視線を動かしたのはちょうどその時。 「泉」 呼ばれた人物は、それに返事をすることなく沙羅とタケの前に立っていた。
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