美しい獣

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Side 沙羅 次の日、お弁当を持っていつものように旧校舎の部室の扉を開ける。 泉はまだ来ていないようだ。 私はここに来る時間はだいたい決まっているけれど、泉は不定期で私より早いときもあれば遅いときもある。 今日は私のほうが早いようで、泉がいつも座る位置にお弁当を置いて、私は1人掛けのソファに座る。 だけど⋯⋯ 「⋯⋯遅い」 気づけばもうすぐ昼休みが終わる時間で。ギリギリまで待ってみるけど、扉の開く気配はない。 もうこれ以上は、授業に遅れてしまう。 自分のお弁当と、中身が入っているお弁当を持って部屋を出る。旧校舎から出るまでも、泉の姿は一度も見かけなかった。 本校舎に戻る途中、中庭に差し掛かった所で、なんとなくこの前まで昼休憩を過ごしていた場所に視線を移してみると、女子生徒が1人、しゃがみ込んでいた。 あの後ろ姿はきっと沢原さんだ。 彼女と一緒に目に入ったのは、ひっくり返ったお弁当とその周りに散らばった中身。 その状況で何があったのかなんて容易に想像できた。 この学校の校舎は旧校舎の他に2つあって、同じ学年でもクラスによっては校舎が離れてしまうため関わる機会も少ない。 本条達のクラスは沢原さんのクラスとは別の校舎で、私は沢原さんと同じ校舎。 彼らは沢原さんといることが多くなったけど、やっぱり校舎が離れているから彼女が1人のときなんてたくさんある。 彩香が現れたことで過激派の女子達もそちらに気を取られていたようだけど、それも長くは続かなかったようだ。
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