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沢原さんは散らばったものを拾っているのかと思ったけれど、違う。
しばらく見ているけれど、しゃがんだまま、彼女は全く動かない。
⋯⋯何してるんだろう。
でも別に私には関係ないことだ。どうでもいい。
いつもならそう思って教室に向かっているのに、その時、なぜか私は沢原さんの方へ向かって歩いていた。
「え⋯⋯」
足音に気付いた沢原さんがこちらを振り返り、驚いた顔をして固まる。
⋯⋯もしかしたら泣いているのかと思ったけど、違ったようだ。
「永井さんだよね?」
彼女の言葉に、少し目を見開く。クラスも違って、話したこともないのに私の名前を知っているとは思わなかった。
首を傾げて不思議そうにこちらを見る沢原さんに、中身が入っているほうのお弁当を前に出す。
「どうぞ、これ」
「え?」
「どうせ私食べないから。それに⋯⋯」
彼女の周りに散らばるそれを見て、言った。
「それはもう、食べられないでしょ?」
お弁当箱の中に入っているはずのそれは、ただ落ちているだけじゃなくて、踏みつけられたのだろう、ぐちゃぐちゃになっていた。
近くに来ないと気づかなかったけど、ご丁寧に原型をとどめていないほど踏まれたようだ。
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