美しい獣

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「でも⋯⋯」 戸惑いを隠せない様子の沢原さんが困ったようにこちらを見る。 なんで?という表情をする沢原さんの気持ちはわかる。私だって、どうして自分がこんなことをしているのかわからない。 理由のつかない自分の行動に、いちばん戸惑っている。 「これ、返さなくていいから」 うろたえる沢原さんの前にお弁当を置いて、容器を指してそう言う。泉用に100円ショップで買ったそれは、彼女には少し量が多いかもしれない。 でも、食べる人がいないからちょうど良かった。 沢原さんの返事を待たずに校舎の方へ向かう。 「あの⋯⋯!」 すると、後ろから私を引き止める声が聞こえて足を止めた。 「ありがとう⋯!」 ペコリと頭を下げてそう言った彼女の腕には、大切そうにお弁当が抱えられていて、私も小さくお辞儀をする。 帰りに泉用のお弁当箱をまた買ってこよう。 そんなことを思いながら午後の授業を受けたけれど、次の日も、その次の日も、泉は私の前に姿を現すことはなかった。
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