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「⋯⋯寒い」
今日は天気が悪くて日が照っていないから、秋といえどもそれなりに肌寒い。そろそろ冬に備えて、昼休憩用の空き教室を見つけなくちゃ。
風紀が乱れまくっているこの学校では、授業で使用しない教室は鍵を閉めてあるから使えない。教室は、人がいてうるさいし。
そんなことを考えながら昨日の夜から作り置きしていたお弁当を食べていると、渡り廊下を歩く沢原いとが見えた。
⋯⋯⋯⋯。
片方の手で頰を抑えている。きっと、さっき叩かれたんだろう。
私と同じように1人でいる彼女は今、この学校のほとんどの女子生徒から嫌われているに違いない。
それも全て———————本条時雨のせいだろう。彼女の状況には流石に同情する。
人間離れしたような綺麗な顔と、同い年とは思えないオーラを放つ本条時雨は、私と同じ1年生にしてこの学校の誰もが知る有名人で。
ケンカもかなり強いらしく、それなりに力のある先輩方でさえ頭が上がらない存在。
おまけに実家は“本条組”というヤクザで、そこの跡取りというのも有名な話。
さっきの女子生徒——————沢原いととは、彼女が繁華街で不良に絡まれていた時、偶然通りかかった本条が助け、その後何度か面識を持つ内に話すようになったらしい。
女子を寄せ付けない本条が唯一まともに会話をする沢原いとに対して、本条に憧れる女子達が妬みや憎しみをぶつけるのは当然のことで。
おかげで彼女はありもしない噂をたてられ、さっきのように呼び出されて、怒りを一身に浴びていた。
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