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「あんたが来ないからでしょ」
沢原さんにお弁当を渡した次の日も、その次の日も、私は律儀に泉の分もお弁当を作ってここへ来た。
食べるかわからないのに作るなんて無駄なことはしない。
ジロリと泉を睨むと、それ以上は何も言わずカップ麺にお湯を注いでソファに座った。
「じゃあ来ないときは言う」
また作って、と言いながら携帯を取り出す。
「⋯⋯」
「⋯⋯」
「⋯⋯なに?」
「⋯⋯?」
「なにしてんの?」
私の言葉に泉は不思議そうな顔をして首を傾げる。
「来れない時言うから、番号」
⋯⋯どうやら連絡先を交換しよう、ということらしい。
なんでわからないんだ?みたいな顔で見ないでほしい。前から思っていたけど、この男は単語で話すことが多いからわかりづらい。
相変わらず無表情な顔を目の前に、連絡先を交換する。
「それと、」
泉と私の視線が交わって、ゆっくりと口を開く。
「“あんた”じゃなくて、泉」
————————ああ、苦手だ。
泉の目は吸い込むように私をとらえる。
逃れられないその視線が、真っ直ぐすぎて落ち着かない。
泉の雰囲気に魅せられる自分に、恐怖を感じて気持ちを落ち着かせるように呼吸を整えた。
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