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「2人とも、大丈夫だった?」
「ええ、大丈夫よ」
穏やかにそう言った真木に彩香が笑顔を返す。この男も、この部屋で数少ない彩香の話し相手だ。
「危ないからね。帰りもちゃんと車で帰るようにね」
そう言うと真木は奥の部屋へ歩いていった。
「状況は良くないみたいね」
彩香の呟きに、つい先日泉が言っていたことを思い出す。
「襲われた?」
「ああ、それも1人じゃない」
昼休み、いつものように食後の時間を過ごしていると唐突に泉が切り出した。
ここ最近の繁華街は治安が悪くなっていて、クラブの連中も何人か怪我をしているのは知っていた。
だけど病院送りになるほど重症の人がいるのは泉に聞くまで知らなかった。いよいよ見過ごせる状態ではなくなってしまったらしい。
襲われた人の中に女性がいたことも、この事実が事態を急速に悪化させていった。
襲われた女性はクラブの2階に出入りする男の彼女だそうで、軽傷だったもののそのショックは大きかった。
「俺達に恨みを持ってる奴なんていっぱいいる」
本条を中心とする彼らはこの街の裏である本条組の手伝いのようなことをしているらしく、この街での影響力も高い。
そしてそれが気にくわない連中ももちろんいて。
今回の騒動は泉の言うように本条達に恨みを持つ者達の仕業だろう。
私達や沢原さんが狙われる可能性も高くて、誰でも出入りできるクラブの営業はしばらく停止することになったらしい。
部屋の中も緊張感が漂っていて、みんな忙しそうに動いていた。
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