悲鳴を欲する生き物の話

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 SNSを閉じてホーム画面に戻る。  画面の左下にある「ファイル」という青いアイコンをタップし、その中の「感想」というフォルダを開いた。  これまでに私がもらった感想は、すべてこのフォルダに残してある。  もらった、ではない。金銭と引き換えに“書いてもらった”感想だ。  感想サービスを販売している人を探して、私は片っ端から依頼をしていた。  ただ私の書いた文章を引用して文字数を稼ぎ、この部分が素晴らしかったです! と安っぽい感想を投げる人もいれば、私が見せ場だと思って力を入れて書いたシーンを褒めちぎってくれる人もいた。  そういう人には、繰り返し依頼をしたくなる。  実績が多い人は、やはり読み込みや伝え方が素晴らしく上手いのだろう。  初めて私が依頼をした人を含め、リピートして感想サービスをお願いしている人が私には数人いた。  その人が書いてくれて感想を喜び、気持ちが折れそうになる度に何度も何度も読み返し、「嬉しい感想をもらえましたオススメです」とサービスに対しての評価を送る。  こうなってくると、どっちがファンでどっちが読者なのか分からない。  まるで私の方がその人のファンのようだ。 「あー……ほんと、やだ。もうなんか、ぜんぶ馬鹿みたい」  自覚した途端に卑屈になる。  虚しい行為だと、そう形容されたことで、自分がとても情けない存在に成り下がった気がした。  いや、最初から成り上がってもいないのだ。  私はお金と引き換えに書いてもらった感想を大切に集めていただけの惨めな塊なのである。  フォルダの中に集めたメッセージは50件近くあり、もらった日付順に並んでいた。  私という人間を喜ばせて元気づけ、時には心を震わせるほどの感動を与えてくれたのだから、誰にも届くことのない私が書いた小説なんかよりもよっぽど価値のある文章である。  誰にも届かない話を私はどれだけ書いたのだろうか。  再度SNSを開き、検索欄に自分の作品のタイトルを入れた。  私のアイコンがずらっと並び、“○○話目を更新しました”という変わり映えのない投稿が日付順に表示される。  そのずらっと並ぶ私のアイコンの間、一つだけ違うアイコンが混じっているのを見つけた。  見慣れないトマトのイラストのアイコンの投稿には、私の書いた小説のタイトルとリンク。  そしてその最後に、コメントが一言添えられていた。
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