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2.
今は面接試験もオンラインだ。面接官の質問にハキハキと答え、十分間の面接もあっという間に終わった。柚那は終始頷く面接官の様子に手応えがあったと感じた。
そして、三週間後に合否通知が届き、柚那は大きな封筒が郵便受けに入っていたので、合格を確信した。でも、封を開けるとは流石に緊張する。
「あっ、合格してる! これで東京へ行ける! やった!」
柚那は居ても立っても居られず、両親へ報告した。父は相変わらずだんまりを決め込むが、母は一緒になって喜んでくれた。
柚那の思惑通りに事が進んだ。そこからはあっという間だった。その学校には家具家電付きの寮があり、柚那は着々と準備をした。柚那は準備しているだけなのに、アイドルに既になっている気分でいっぱいだった。
しかし、母はやはり心配だったのだろうか、一緒に入寮から入学式まで同行すると言ってきたが、柚那は「大丈夫」だと母に何度も言い聞かせ、三月末には一人で上京した。
柚那は晴れて入学した訳だが、学校は基本的に週三回のスクーリングで時間的に余裕があり、柚那はその間にオーディションの雑誌を買い、いくつか目星をつけ、アイドルのオーディションを片っ端から受けた。元ダンス部だった柚那にとっては、ダンス審査は楽々だった。
毎日、ポストを見ては通知が届いていないかを確認した。封筒が入っていた時はその場で顔を緩ませ、そそくさと自室へ戻って、封を開ける。だが、現実は厳しいものだった。
「はぁ……、また落ちちゃった。でも、諦めない! 絶対にアイドルになってみせる!」
柚那は最終選考で落ちたりしたが、夢を諦めずに挑み続けた。
そんな日々がぐるぐるとループするある日、先日受けたオーディションの通知が届いた。数え切れないほどのオーディションを受け、その度に落ちていたので、柚那は正直、心が折れかけていた。封を開ける動作もなんだか億劫になってきた。
「また落ちてるんだろうな。――えっ! 嘘でしょ? う、受かってる。これ、私宛てだよね? ……うん、私にだ。やったぁ!」
柚那は『合格』の二文字を見て、書類を抱き締め、ぐるぐると舞い、体で喜びを表現した。本当は今にでも窓を開けて、外に向かって「受かったぁ!」と叫びたいくらいだ。
柚那は集合日時などの詳細を確認し、当日、都内にある芸能事務所兼スタジオがあるビルまで足を運んだ。そこには、最終選考で見かけた子が何人かいた。その中でも一番可愛い子がいた。柚那がその子をじっと見ていると、バチッと目が合った。
柚那は帰り際、その女の子に声をかけられた。もしかして、凝視していたから、文句を言われるかと内心ビクビクした。
「やっぱり、貴方も合格したんだね。ダンス上手かったし、なんか情熱感じた」
「は、はぁ……、そんなことないです。私より貴方の方が可愛いし、歌上手かったし、絶対に受かってるだろうなって思ってました」
「あはは、ありがとう。それよりさ、私達同い年だよね? 敬語とかやめよう。私は明里っていうの。貴方は?」
「私は柚那。よろしくお願いします」
「だから、タメ口でいいよ。柚那ちゃん、これから同じグループな訳だし、一緒に頑張っていこう!」
「うん、一緒に頑張ろう。よろしくね、明里ちゃん」
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