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3.
明里はニコニコしながら、柚那の手を握り、ブンブンと握手した。柚那は終始、明里のペースに押され気味で困惑したが、話しているうちに意気投合し、プライベートでも一緒に遊んだり、ダンスの練習をしたりした。
柚那は学校との両立をしながら、芸能事務所兼スタジオがある都内まで学校が終わっては、レッスンに通う日々が続いた。
そんな充実した日々はあっという間に過ぎ、気がついたら、二年が経っていた。最初に上京してきた時の東京を異世界だと感じていた感覚も、今となってはすっかり体に馴染んでいた。でも、一つ言えることは田舎にいるよりかはマシということ。この二年間で学校の友達も出来て、先生の愚痴を言い合ったり、夜遅くまでファミレスで他愛もない話をしたりとそれなりに満喫していた。勿論、両親に宣言した通り、学校をきちんと卒業し、資格も取得した。
しかし、柚那はアイドル活動を続けたい一心で、学校卒業後は事務所が借り上げているマンションに引っ越した。明里が一番初めに入寮していたらしく、色んなことを手取り足取り教えてくれた。
「柚那ちゃんはバイトしてるの? 大変じゃない?」
「うん、大変だけど、親に頼れなくてさ。でも、バイトはバイトで楽しいから、頑張れるかな」
「ふーん、そうなんだ。明里は柚那ちゃんと一緒にいる時間が少なくて、寂しいよ」
「そんなこと言わないでよ。そうだ。写真映えしそうなスイーツ屋さんを見つけたから、今度一緒に行こうよ! 明里ちゃんなら絶対に映えること間違いなし!」
「もうやめてよぉ。二人で一緒に映えようよぉ!」
明里はグループ加入時から活発的で、やたらと柚那に絡むことが多かった。あと、驚いたことに、柚那がバイトしている和菓子店まで来るようになった。来てくれる分には嬉しいが、何も買わずにただ来るだけ。柚那が厨房で作業していたり、お客さんの対応をしたりしているのにも関わらず、明里は柚那に話し掛けてきた。
「明里ちゃん、申し訳ないけど、今お客様対応中だから……」
「なんでぇ? 明里と話そうよぉ」
「話そうって……。まだバイト中だし。バイト終わってからなら大丈夫だよ」
「えー、そんなに待てなーい」
「いや、だから……」
「嬢ちゃん、商売の邪魔になるから、どっか行ってくれないか?」
「……は? 何それ。私は柚那ちゃんが心配で来てるって言うのに。柚那ちゃん、あのおじさんに騙されちゃダメだよ」
「いや、だから……。明里ちゃん、申し訳ないけど、他のお客様もいらっしゃるし、今日は帰ってくれないかな? 帰ったら、いっぱい話そうよ」
「柚那ちゃんまで……。分かった、仕方ないから帰るよ」
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