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 しかし、ふと立ち止まってみると、柚那はデビューシングルから三列目の右端で、後ろからメンバーを見ていた。皆、私よりキラキラしていて、眩しかった。  柚那はバイトが終わると、真っ先に事務所へ行き、更衣室でレッスン着に着替える。そして、スタジオに来ては誰よりも早く自主練習をして、レッスン中は振付師の先生に細かい部分まで教わっていた。レッスンが終われば、ブログを更新し、写真やボイスメッセージも載せたり、誰よりも頑張っているはず……なのに、評価してもらえない。柚那は心が折れそうだったが、そんな時はいつもそばに明里がいてくれた。 「柚那ちゃんは絶対にいつか花開く時が来るよ! いつも誰よりも頑張ってるの、明里は知ってるから」 「よし、私もまだまだってことだよね。頑張らなくちゃだよね! 継続は力なりってね」  柚那はそんな風に自分を奮い立たせ、目立たないポジションでも目立つように試行錯誤した。そんなある日、三枚目シングルのフォーメーション発表がマネージャーからあった。 「――と言う訳で、三枚目シングルのセンターは柚那にやってもらう」 「えっ、私が……センターですか?」 「そうだ。よろしく頼むぞ」 「は、はい。よろしくお願いします!」  マネージャーからのまさかの発言に、柚那は目を大きく見開いた。何かのドッキリかと思ったが、本当に自分がセンターらしい。一瞬、時が止まったような感覚になり、涙がボロボロと零れ落ちた。この頃には柚那は二十歳を迎えていた。  柚那はやっと夢が叶ったと思い、センターポジションに立つ。そして、後ろを振り返れば、今まで背中しか見なかったメンバーの顔が見える。しかし、メンバーたちは冷ややかな態度で、前回までのセンターの子は号泣していた。 「あ、あの。初めてのセンターなので、分からない事が多々あるかもしれませんが、よろしくお願いします」 「…………よろしく」  柚那が皆に頭を深々と下げたが、皆そっけない。 「な、なんで柚那がセンターなの? 私の立ち位置返してよ!」 「加奈ちゃん、落ち着きなよ。今までセンターだったんだから、柚那ちゃんにセンターの心得を教えてあげなよ。加奈ちゃんはセンターとしては先輩なんだから。ね?」  静まり返ったスタジオで泣いていた元センターの加奈が声を荒げて、柚那に掴みかかってきた。柚那はどうすることも出来ず、呆然と立ち尽くしていた。柚那と加奈の間に明里が入ってくれ、明里が加奈を説得し、その場はなんとか収まった。  柚那は申し訳ない気持ちになったが、センターとしての責務を果たそうと気持ちを切り替え、より一層気合いを入れて、練習に励んだ。
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