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「何があったの? もしよかったら、聞いてもいい?」 「うん、なんかロッカーの上に水の入った容器があって、ロッカーを開けた瞬間に、落ちてきてずぶ濡れになっちゃったの」 「そうなんだ。それは酷いね。私のジャージで良かったら着て。予備のだから、返すのはいつでもいいよ」 「ありがとう。それにしても、誰がこんなことを」 「うーん、誰だろうね。柚那ちゃんに恨みを持っている人とか?」 「私、恨みを持たれるようなことはしていないのに……」 「とりあえず早く着替えなよ。一緒に帰ろう。一人じゃ心細いでしょ?」 「うん、そうだね。明里ちゃん、何から何までありがとうね。私、明里ちゃんがいなかったら、正直心が折れてた」 「明里は柚那の味方だよ。だって友達でしょ?」  落ち込む柚那に、明里はニッコリと微笑んだ。柚那は明里から借りたジャージを着て、一緒にマンションへ帰った。  それからというもの、靴が隠されたり、物が失くなったりする嫌がらせが続いた。最初は気にしないようにしていたが、塵も積もれば山となるではないが、柚那は徐々に耐えられなくなった。  柚那は徹底的証拠を得るため、ロッカーの隅にアプリ連動の超小型カメラを設置した。皆が帰ったのを見計らって、柚那はアプリを起動した。更衣室内では聞き覚えのある声が自分の悪口や嘘を言っていた。そして、柚那のロッカーがガチャリと音を立てて開いた。 「えっ、明里ちゃん?」 『マジでさ、柚那は調子乗ってるよね。明里たちのことを馬鹿にしててさ。皆もそう思わない? 大して可愛くもないのにさ。こんな服着ちゃって』  カメラに映し出されたのはケタケタと笑う明里の姿だった。そして、柚那の私服を取り出したかと思うと、手に持っていたハサミでズタズタに切り裂いていた。 「嘘でしょ……」  まさかグループの中で一番仲の良いと思っていた明里がこんなことをするなんて思ってもみなかった。今、更衣室へ走っていけば、現場を取り押さえられると柚那は思ったが、あまりの衝撃でその場にへなへなと座り込んだ。 『これでいっか。後は適当に時間潰して、タイミングを見計らって、戻ってくれば、柚那の無様な顔が拝めるっと。皆、このことを柚那に言ったら、――分かってるよね?』  明里のあざ笑う声がアプリ越しから聴こえる。柚那は聴くに耐えなくなり、アプリを閉じた。  柚那は少しの間、放心状態となり、自主訓練どころじゃ無くなったため、皆が更衣室を出たであろう時間帯に更衣室へ向かい、明里と鉢合わせしないように足早に寮へ帰宅した。  柚那はあまりの出来事に帰宅後も頭の中が真っ白で、ベッドで仰向けになり、意味もなく天井を見つめた。
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