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8.
柚那が気付いた時にはすでに朝日が昇り始めていた。意識がぼんやりとし、いつものように起きようと思っても起きられない。体が鉛のように重く、トイレに行こうとすれば、動悸やめまいがして、立っていられず、四つん這いになって、トイレまで行く。
今日は朝からレッスンだと言うのに、動けない自分に対して、焦りを感じ、胸が締め付けられるような感覚とドクンドクンと鼓動がやけに強く感じて、気持ちが悪い。
「なんだろ? なんか無理だわ。マネージャーに連絡しなきゃ」
マネージャーに電話するだけなのに、体が言うことを聞かないし、変に緊張する。柚那はベッドに横たわり、電話をかける。
「もしもし、柚那? 朝早くからどうした?」
「あの、その……なんて言うか、体がしんどくて。今日のレッスンは行けないです」
「大丈夫かい? 珍しいね。確かに声に覇気がないし、柚那らしくないね。とりあえずゆっくり休んで。何かあれば、また連絡して」
「はい、分かりました」
柚那は電話を切ると、大きなため息をついた。休みの連絡が出来た安心感と休んだことに対する罪悪感が心の中で入り混じる。
「どうしちゃったんだろう。原因はやっぱり昨日のことだよね。もうどうしていいか分からない」
頭の中で昨日のことがフラッシュバックし、同時に怒りと悲しみが込み上げてくる。柚那は枕に顔を埋め、声を殺して泣いた。
その後も体調が良くなることはなく、むしろ生活に支障をきたすようになった。大好きだったバイトも行けなくなった。女将さんの優しい声を聞くだけで涙が出そうで声が震えた。柚那は何度も謝り、バイトを辞めることにした。
数日後、マネージャーが部屋まで来た。ボサボサの髪と気怠そうな柚那を見て、マネージャーは酷く驚いていた。
「柚那、だ、大丈夫?」
「あっ、はい……。すみません、こんな格好で」
「事前に言った方が良かったかもしれないけど……。申し訳ないけど、今から事務所に来てくれないかな?」
「分かりました。ちょっと準備します」
「うん、分かった。だったら、エントランス前に車を停めてるから、そこで待ってる」
「はい。――あ、あの!」
マネージャーがその場を後にしようとした時、柚那は慌ててマネージャーを引き留めるように声を振り絞った。
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