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学校が流行り病で休校の知らせが入った午前中。私は小学一年生になったばかりの竜を迎えに歩いていた。
小学校の玄関に竜が待っていてくれて通行証を職員に見せて、さよならを言い、団地までの道のりをまた歩く。
いつもの道なのに、竜はキョロキョロとしだして、あれもこれもと小さな人差し指を家に指す。
「ママ、いえが、ないてるよ」
「え?」
私は立ち止まり竜の目線までしゃがみこみ聞き出す。
「竜、どういうこと?」
「ママもテレビでみたでしょ?だれも、いないいえ」
民法ではない放送局でニュースを流していたことを思い出す。空き家問題を取り上げていた。
「ただいまってこえがしないの・・かわいそうだよ」
住む人がいなくなったら壊されていくのだと、テレビ越しに竜はまじまじと見ていて俯いていた。
「そうだね。かわいそうだね」
「あのいえも、あっちのいえも、いつかただいまっていってくれる人がくればいいね」
「本当にその通りだね。いつかただいまって言う人が来てくれたらいいね」
「そしたらね、いえもね、げんきになるよ」
小さな息子ながら思ったことに感心して、そんな都合がいいことが起きやしないと言えずにただ、ぎゅって抱きしめて。
「竜はえらいね。人じゃなくて家のことまで心配してくれる優しい子」
竜が物事をもっとわかる前に指差した家たちのにぎやかな声が聞けますようにと願っている。
おわり
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