カケラ

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ある日のことです。月がぽうっと輝く夜空の下、動けないオトナと、坂を登ってきた子どもがいました。子どもは、動けないオトナに、話しかけました。 「どうして動かないの?」 オトナは、返事をしません。よく見ると、オトナには、喜び、怒り、楽しみ、悲しみの四つのカケラがありませんでした。子どもは、首にかけてきた鍵を取り出し、自分のカケラを取り出しました。カケラを見ると、ぽわあと輝き、いろいろな色に光っています。子どもは、オトナにカケラを渡しました。それでも、オトナは動きません。子どもがどうしようかと思った時、お月様が声をかけました。 「心を見てあげて」 子どもは、うんと頷き、オトナのココロをカタッと開きました。ガラスで出来ているココロは、いくつかの破片が無くなってしまっています。その時、お月様が、もう一度話しかけました。 「僕の月の光を使って」 お月様は、月の光を少し子どもに渡しました。 「ありがとう。お月様」 子どもは、お月様からもらって、集めた月の灯りをココロの隙間に埋めました。すると、オトナがゆっくりと目を開けました。 「ありがとう。だけどね、僕は君で、君は僕」 草がさらさらと揺れ、月はぽうっと輝いています。子どもは、そうだねといい、オトナに自分の鍵を渡しました。すると、子どもは、その場で動かなくなりました。オトナは、子どもの頭を優しく撫で、その場を立ち去りました。
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