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二日後の満月の夜、清香は病室の窓を見上げた。明かりを消していても、今日もよく見えるから、月に照らされて部屋いっぱいがほの白く明るい。思い出してベッドから立ち上がり、窓を開けた。澄んだ月夜に触れると、本当に届くような気がして、そっと丸い月に手を伸ばす。
コンコン。
ノックの音に振り返ると、開いた扉から、ポニーテールの笑顔がのぞいた。息を飲む。
「清香。手術するんだって? 大丈夫?」
言葉を失う間に歩み寄り、清香の手を取って気遣ってくれる。顔立ちが記憶より大人びても、まっすぐ目を見て話すところは変わりない。私の心配なんて、いいのに。胸が詰まった。
「三和ちゃん、ごめんね。ごめん。一緒に行くって、約束したのに」
「なんで謝るの。いいんだよ、あれは私のワガママ。清香は家出る理由なんかなかったのに。私がムリヤリ連れて行こうとした。一人になるの寂しくて、怒っちゃったけどさ」
「ごめん」
「いいって。大丈夫だよ。いい人に会えたから」
三和が泣き崩れる清香を支え、ベッドに二人で並んで座る。
「電車の中で、どうしようって、ずーっと泣いてたけどさ。泣き疲れて、たまたま降りた小さな駅で。おじいちゃんとおばあちゃんがやってるお蕎麦屋さんがあったの。お金数えて、入って食べたらあったかくって美味しくって。ぜーんぶ話して、私とにかくお願いして、そこで住んで、働かせてもらったの。でね、後々のこと考えたらって、高卒の資格とって、就職して。初任給でスマホ買った」
中学生に戻ったようなピースサインとともに、三和の笑顔が輝いている。
「すごいでしょ? 頑張ったんだから。まだいっぱい、話したいことあるんだよ。また聞いてよね。清香の話も聞かせて。今度は、約束守ってくれるでしょ」
頬を拭って、清香も笑顔を返した。
「うん」
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